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井上堯之 COMEBACK

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小樽市のデイケアセンターでのボランティアの中で新たに知った童謡・唱歌、その歌詞に込められた想い。プロを引退したからこそチャレンジ出来た新しい世界でもあります。誰の心にも何処かに眠っている幼い日の記憶、それらを呼び覚ます様な音の重なり。伴奏はギター1本でシンプルながら、郷愁を誘うコードワークです。

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童謡唱歌への戸惑い 〜新しい発見〜

 2009年12月にリリースされたCDです。井上堯之がプロ・ミュージシャンからの引退宣言をして北海道小樽市へ行っていなければ、生まれなかったCDでもあります。何故ならロック・ミュージシャンである井上堯之にとって、〝プロ〟である限り、如何に食指が動くような挑戦であってもジャンルが「童謡唱歌」ではファンを裏切ることになると思っていたこと。そして童謡唱歌を歌えるのは〝美しい声で正しい歌唱のできる者〟でなければならない、と固く考えていたからでした。
 小樽市でお世話になっていた「南小樽病院」での初めてのライブでのこと。お客様は同病院に併設されているデイケア施設の利用者の方々です。演奏する曲、ほとんど全てと言って良いほど皆さんには馴染みのない楽曲ばかり。拍手は下さるものの、お義理としか思えない状態に井上はすっかり落ち込んでおりました。そこへ同病院・院長(現・理事長)が本を何冊も抱えてやって来られました。「堯之さん、ここでは童謡唱歌・歌謡曲ですよ」と。
 「童謡唱歌の、メロディー譜のついている本が欲しい」と井上から連絡がありました。井上に渡した本は「童謡・唱歌 日本百名歌」(主婦の友社・刊)でした。この本には譜面・歌詞の他に、その歌に纏わるちょっとした解説が添えられていたので、歌のバックグラウンドを知るのに良いかと思って選んだ本でした。</p><p>それから数週間というもの、選び出した童謡唱歌のアレンジが続きました。それも楽しく挑戦していました。一音ごとに変わるコード進行や、得意のテンションコード(7th、9th、11th、13thのようなもの)やジャズコードも取り入れ、完成したのがこのCDです。
 そして井上にとって最も大きく、また新しい発見は、子どもの頃には知らなかったそれらの歌詞の、真の意味を知ったことでしょう。「里の秋」が復員してくるであろう父親(夫)を待つ家族の姿を歌ったものであること、「雨降りお月」の歌詞は、作詞者・野口雨情の夫人が嫁入りしてきた時の状況であり、その夫人の心情を思いやった詞であることなど。そして歌われる詩は決して子供騙しのものではなく、名のある詩人が想いを込めて書かれているものであるということに感動を覚えたのでした。その時、井上の心に童謡唱歌の素晴らしさが〝Comeback〟してきたのです。

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