～叶わなかった共演～

　「勝新太郎さんの未発表音源をCD化することになり、そこで井上さんにギターを弾いて頂きたいんですが・・・」このようなご依頼の電話を頂いたのは、2017年の秋だったと思います。お話を聞いてみると、なかなか意欲的で内容豊かなCD企画だと思い、お引き受けしたのですが・・・。
　勝新太郎さんが座興で披露したコンガを軸に、ジャズの佐藤允彦さんが作曲した「The Blind Swordsman」に、ギターで参加させて頂くことになったのです。年末にはレコーディング日程も決まり、譜面も手元に届いておりました。
　ところがレコーディングを目前にして、井上が参加を辞退させて欲しい、と言い始めたのです。今から思えば、口に出してはいなかったものの、体調に不安があったのかも知れません。お話を下さった代表者の方には本当に申し訳なく思いながら、お詫びをしつつ井上の意向を伝えました。
　このCDの企画制作会社の代表者の方は、こちらの非礼を責めることも無く、それどころか「何とか井上さんのギターを入れたい、既発の楽曲からでも良いので」と仰ってくださったのです。既にプレスにも発表した後でのこちらの我儘ですから、お困りになってもいたのでしょう。しかしそうであったとしても、そこまで思って頂けたことを本当にありがたく思い、ラストアルバムとなった波動盤CDから2曲を提供させて頂きました。
　このCDが発売された時は、既に井上がこの世を去った後でした。
　我儘を聞いてくださり、その上でなお、井上ギターに拘ってくださった制作者の皆さまに、そっと手を合わせて感謝したい思いを、今でも持ち続けています。